第56回江戸川乱歩生受賞作家 横関大(よこぜき だい)。
彼が2019年に発表した推理小説が『彼女たちの犯罪』(幻冬舎)です。
現在、日本テレビで放送中。
主演は深川麻衣さん、共演は前田敦子さん、石井杏奈さんほか。
連続ドラマを見ていると、つい続きが気になって原作の内容を検索しますよね。
小説を買って読むほどではないけれど、おおまかなストーリーの流れが知りたい―。
この記事はそんな方のために『彼女たちの犯罪』の概要、ドラマ版との違いを紹介したいと思います。
ちょっとだけネタバレがありますので、その点はご注意ください。
横関大『彼女たちの犯罪』のあらすじ
原作小説は三部構成。
- 彼女たちの事情
- 彼女たちの噓
- 彼女たちの秘密
からなります。
舞台は1989年の日本。
日村繭美(ひむら まゆみ)は大手自動車メーカーに勤務する34歳の美しい女性です。
業務はそつなくこなし、上司からの信頼が厚い彼女。
将来は安泰に思えますが、実は結婚願望が強く、婚活しています。
なかなかいい相手に巡り合えず、落胆する日々。
原因は大学時代、チアリーダーをしていた繭美の理想が高く、相手に求める条件が厳しいため。
ある日、仕事先で大学時代の先輩である神野智明と再会します。
イケメンの整形外科医で裕福ですが、繭美の大学時代の後輩とトラブルがあったいわくつきの人物。
繭美は最初こそ警戒していましたが、神野の甘い言葉にだまされ、交際に踏み切ることとなりました。
ですが、大学卒業後、大企業で働いてきた繭美は世間知らずではありません。
智明の言動、職場の人々の態度から、彼が既婚者であると気づきます。
行動力のある繭美は神野の自宅付近を見張り、彼の妻 由香里を一目見ようと画策しますが…。
数週間後、海に浮かんだ女性の溺死体。
いったい誰?自殺か他殺?
熊沢理子(くまざわ りこ)は上原刑事とタッグを組み、事件解決に乗り出します。
溺死体は損傷が激しく、個人の特定が困難でしたが、非常に高価な腕時計を身に着けていました。
これは、捜索願が出ていた神野由香里の所持品に間違いなし。
遺体は神野由香里のものと断定されますが、彼女の足取りを追っていると不審な男性の影がちらつきます―。
横関大『彼女たちの犯罪』の見どころ
職業や立場の違う30代女性の描き分け、彼女たちの日常生活や苦悩をいかにリアルに表現するかが主眼となりますね。
キャリアを積んだOL、裕福な家庭の専業主婦、男社会で生きる女刑事。
登場人物の内面にどれだけのリアリティーを感じられるかが、この小説を楽しめるか、楽しめないかの分かれ道だと思います。
推理小説としてはかなり古典的なトリックを使っています。
これは問題ありません。
ミステリーの物理的なトリックは出尽くしていると言われ、現在ではトリックの掛け合わせや動機、作品の世界観に重点が置かれていますから。
『彼女たちの犯罪』もいくつかの既出トリックを組み合わせているため、ラストまでだれずに読み進められました。
横関大『彼女たちの犯罪』原作とドラマの違い
小説の時代設定は1989年。
作者がこの時代を選んだ大きな理由は、警察の科学捜査にあると思います。
科学技術の進歩で、ミステリートリックのいくつかは使えなくなっていますから、舞台を過去に設定するのはよくあること。
ただ、原作小説は時代考証が雑なので、昭和後期の話と言われると違和感がありました。
40代から50代の層は1980年代をよく覚えています。
ドラマ化に当たって舞台を現代に移したのは正解だと思います。
また、女性が共感できるようにキャラクター設定の変更がなされていますね。
繭美の後輩と神野智明とのトラブルが、ドラマでは「後輩の片思い」として描かれているのがその一例。
繭美の結婚願望がいくら強くても、可愛がっていた後輩に乱暴した男性と関係を持つのは不自然だと思っていたのでこの変更には納得しました。
繭美の勤務先も大手自動車メーカーからアパレル会社に変わっていますね。
主人公のファッション、華やかな業界が作品の印象をきらびやかにしています。
松本清張『けものみち』が現代版リメイクされた時、宝飾デザインの要素がプラスされたのと同じ手法ですね。
神野智明の妻 由香里も、原作より華があって好印象。
地味な女性でも良家の奥様は身ぎれいなはずなので、ドラマ版は現実味がありますよ。
原作では中盤まで三人がつながっていたとわからないようにしていましたが、ドラマでは1回目にネタバレ。
これは登場人物の内面を、原作よりも掘り下げていく予感がしますね。
「どうしてこの三人が共謀しているのか?」
「本当に仲間なのか?」
この2つがメインテーマになると思います。
原作の「弱点」を補っている今回の映像化。
この先、原作をどう料理するのか、楽しみですね。
まとめ
日本テレビで放送されている横関大『彼女たちの犯罪』。
ドラマは原作とは違う展開になるそうですから、期待しましょう。
脚本家や演出家が「女性」の視点で物語を深く掘り下げて欲しいですね。