2023年6月末からNetflixでよしながふみ原作『大奥』のアニメが独占配信されています。
『大奥』は2004年から2021年まで『MELODY』で連載されていた人気漫画。
2006年には文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、2009年手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞、その他華々しい受賞歴を持っています。
何度も映像化されているのでご存じの方は多いですよね。
ですが、正直なところ原作ファンにとって実写映像化された作品は納得のいく出来ではありませんでした。
映画・地上波テレビドラマには「制約」がありますし、興行成績や視聴率を考えて人気俳優を起用するため、さらに多くの「縛り」が出てきます。
原作に忠実に作るのであればサブスク、しかも数多くの挑戦的な作品を送り出しているNetflixが理想的。
これは期待が高まりますね。
今回はよしながふみ『大奥』の魅力、作品の見どころについて語りたいと思います。
よしながふみ『大奥』実写映像化が難しいのはなぜ?
6月29日 大奥 Netflix pic.twitter.com/s2bK5XCmZ6
— Shota (@JinmResult) May 23, 2023
そもそも、どうしてよしながふみの『大奥』は忠実な実写映像化が難しいのでしょうか?
それは1人1人の人物を幼少期から掘り下げる作者のスタンスにあります。
重要人物は回想シーンを含めて、幼少期から老人になるまで描かれる『大奥』。
一人の俳優さんが演じるには無理がありますし、3〜4人で演じ分けるとイメージに合わないキャスティングが出てきますよね。
漫画の実写映像化は本当に難しいものです。
また男女逆転という奇抜な題材を含めて、デリケートな問題を多く扱っている『大奥』。
病気、差別、あらゆる種類の暴力、いじめ、同性愛、インセストが取り上げられています。
よしながふみの美しい絵柄と抑制の効いた演出でさらっと描かれていますが、かなりタブーに切り込んでいますね。
テレビのゴールデンタイムに放送するのは厳しいと思います。
演じる役者さんたちも事務所からNGが出そうですよね。
よしながふみ『大奥』の魅力 絵柄と時代考証
では、次に原作漫画の魅力について語りたいと思います。
まず、絵柄。
すっきりした独特のライン、華のある絵柄が特徴のよしながふみ。
それだけでなく、多くの登場人物を描き分けできる画力がすばらしい。
江戸時代、男性は髷を結い、女性は日本髪。
現代物のように髪型で描き分けたり、身長や服装を目印にしたりできない中、どのキャラクターも個性を持って成立しています。
しかも、髷を結って月代をそっていてもかっこいい男性が描けるデッサン力。
何度読んでも「すごいなあ」とため息が出ます。
また、時代考証が行き届いていることには頭が下がりますね。
第1巻に水野が「江戸では鼠色が大流行」と話すシーンがあります。
実際に様々な種類の鼠色が流行り、当時の「黄表紙」(江戸時代の挿絵付き娯楽小説)に風刺画が載っていたほど。
こういう細かい史実がしっかり押さえられているからこそ、男女逆転というパラレルワールドストーリーにも説得力があるんですよね。
興味のある方は『大奥』の巻末を見てください。
参考文献がたくさん記載されています。
よしながふみ『大奥』の魅力 複雑な人物造形
よしながふみ作品全般に言えることですが、「善悪二元論」に陥らない複雑なキャラクターが魅力です。
例えば、春日局。
徳川家安泰のために何人もの罪なき人々を殺害、愛し合っている家光とお万の方を引き離すなど非情の人物として登場しますが、読み進めていくと一本筋の通った傑物。
かわいいわが子と別れ、世の平安のために働いた「無私の人」とも言えます。
また、「生類憐みの令」や赤穂浪士への処遇などで後世からの評判が悪い第五代将軍綱吉。
明晰な頭脳を持ちながらも、愛する子供を亡くし、父親である桂昌院の妄言に従ってしまう優しさと弱さを持った女性としての側面が描かれています。
実は歴史上の綱吉公も世間で思われているより聡明な人物だったらしいので『大奥』は歴史の重要な部分を押さえているな、と膝を打ちたくなりますね。
その他にも、平賀源内の破天荒さ、吉宗公と加納遠江守や家定公と阿部正弘など女性同士の友情・協力関係が重いストーリーの中で光となっていて読者の心をつかんで離しません。
まとめ
実写映像化は困難なよしながふみの『大奥』。
Netflixで独占配信中です。
アニメの強みを活かし、どこまで忠実に再現されるのか楽しみですね。