2023年8月16日に公開され、急上昇中の番組『デップVSハード』。
2022年に俳優ジョニー・デップさんと元妻 アンバー・ハードさんの間で起きた名誉棄損裁判を取材したドキュメンタリーです。
全3話。
「裁判があったことは知っているけれど、詳しい内容は知らない」
「時系列にわかりやすくまとめられているのなら見ようかな?」
そう思われている方がいらっしゃると思います。
一方で
「内容が偏っていたらイヤ」
「思っていた番組内容とは違っていたら時間の無駄」
とためらう方もいるでしょう。
この記事は実際に番組を見た筆者が、裁判動画や他の番組と比較して内容を解説したいと思います。
【結論】
番組の内容は、アンバー・ハードさん寄り。
ジョニー・デップさんのファンはYouTubeの裁判まとめ動画やデップさん側弁護士のインタビュー動画を同時に視聴することをおすすめします。
『デップVSハード』番組の概要
全3話。
- 「試される真実」
- 「狂騒するネット」
- 「飛び交う判決」
から成り立っています。
ふたりの出会い、結婚と離婚、今回の名誉棄損裁判に至った経緯を映画のシーンを交えながらざっくりと解説。
その後、裁判と世間の騒ぎを追っていきます。
事の発端は離婚後、アンバー・ハードさんがワシントン・ポスト紙オンライン版に寄稿した文章。
アンバー・ハードさんは自分を「DV被害者」「告発したらバッシングされた」とつづっています。
ジョニー・デップさんの名前こそ出ていませんが、誰を「DV加害者」としているかは明らか。
これに異議を唱えたジョニー・デップさんがアンバー・ハードさんを訴え、ワシントン・ポスト紙本社があるバージニア州フェアファックスで裁判が開かれることになります。
アメリカでは一時期、ウクライナ情勢よりも耳目を集めた「世紀の裁判」。
全米がかたずを飲んで見守ることになりますが、その行方は?という内容です。
「デップVSハード」番組制作の意図
監督はエマ・クーパー。
「知られざるマリリン・モンロー 残されたテープ」、「マデリンちゃん失踪の真実」で知られるディレクターです。
オーストラリア、シドニー出身。
この番組を制作した目的を「裁判の周辺で巻き起こった人々の反応を検証してみる」こととしています。
アメリカ国民が注目し、毎日SNSをチェックし、友達と議論をした裁判。
その間に感じたことをまとめたのが『デップVSアンバー』だとか。
そのため、あえて当事者にはインタビューを行わなかったそうです。
『デップVSハード』感想と考察
『デップVSハード』鑑賞直後の感想
何も考えずにこの番組を見ると「ジョニー・デップさんが家具に八つ当たりした動画があるから、彼がDVしていたのでは?」と思いますね。
私も思いました。
ですが、陪審員はジョニー・デップさんを支持しました。
その理由がこの番組で言われているように「熱狂的なファンが多いから」「陪審員がネットに影響されたから」と捉えるのは、陪審員に失礼。
彼らは仕事・家事・娯楽をおいて裁判に参加していたのです。
『デップVSハード』を実際の裁判内容と比較
私はドキュメンタリーを鑑賞した後、裁判動画とアメリカのニュース番組、インタビュー番組を視聴しました。
すると『デップVSハード』では扱われなかった証言がたくさんあることに気づきました。
裁判は結局、裁判長と陪審員が「誰を信じるか」「誰を好きか」にかかっているという点はエマ・クーパー監督と同意見です。
だからこそ、ふたりの人間性がわかる証言はカットすべきではありませんでした。
長い裁判、たくさんの証言があるので全ては書けませんが、印象的なのは以下の点。
- デップ・ハードふたりとも飲酒・薬物依存がある
- アンバー・ハードさんは寄付について嘘をついていた
- アンバー・ハードさんがDVの証拠として提出した写真は画像加工ソフトを通っていた
- 同時期にプロのカメラマンが撮影した写真にアザ・キズはない
- アンバー・ハードさんは過去の交際相手にDVを行っていた証拠があるが、デップさん側にはない
- 医療治療記録があるのはデップさん側だけ
- 『デップVSハード』のラストはデップさんに不利な証拠が出てきて幕を閉じるが、実はデップさんに有利な証拠も裁判で提出されていない
アンバー・ハードさんが元付き人ケイト・ジェームズさんの顔にツバを吐きかけ、暴言を吐いたという証言、イ―ロン・マスクさん等との不倫についてもカットしていますね。
ハードさんの印象を悪くする証言はカットする姿勢、アンフェアだと思いました。
ちなみにアメリカとハリウッドに詳しい、映画評論家の町山智浩さんと藤谷文子さんのYouTube動画でも裁判を見る限り、デップさん側の証拠・証人は強いけれど、ハードさん側の証拠は弱いとおっしゃっていました。
おふたりとも普段はリベラルで弱者の味方なだけに、説得力がありましたね。
まとめ
陪審員裁判は結局「誰を信じるか」にかかっています。
この制度は昨日今日始まったものではありません。
ハードさん側の弁護士が負けた理由を「デップが著名人だから」「SNSは彼の支持者ばかりで陪審員はそれに影響された」「出したい証拠が許可されなかった」と述べて、番組のコメンテーターに「敗けて相手を責めるのは簡単」とたしなめられていました。
共感した視聴者は多かったでしょう。
「どうして裁判長と陪審員はハードさんを信じなかったのか?」
ここが問題です。
『デップVSハード』は、ハードさんの敗因をデップさんのスター性、熱狂的な支持者の存在、ネットの世論操作に求めていたのは子供っぽい陰謀論に映りました。
私たちはこの裁判と『デップVSハード』を通して、多方向から情報を得ること、一次情報に当たることの大切さを学ぶべきかもしれません。