2024年の新春、松本清張原作のドラマが放送されます。
テレビ朝日開局65周年記念と銘打って二夜連続一挙公開。
第一夜が1月3日の『顔』、そして第二夜が『ガラスの城』です。
『ガラスの城』は『点と線』、『ゼロの焦点』、『砂の器』などやや難解で抽象的なタイトルが多い松本清張作品の中では異色の題名。
キャッチ―で、内容が気になりますよね。
今回は松本清張原作『ガラスの城』の見どころについて解説したいと思います。
また、『顔』や『霧の旗』など何度も実写映像化されている作品がある松本清張作品の中で、『ガラスの城』はあまり映画やドラマになっていない小説。
その理由についても紹介したいと思います。
松本清張『ガラスの城』の概要
『ガラスの城』は1962年(昭和37年)に雑誌『若い女性』に連載された長編推理小説です。
『若い女性』は講談社から刊行されていた、洋裁や手編みニットなどを扱ったファッション雑誌。
付録は洋服の型紙などですから、時代を感じますね。
『ガラスの城』はこうした購読者層に合わせ、女性が語り手に設定されています。
連載が終わり1976年に大幅な加筆修正の後、講談社から出版されました。
タイトルは舞台となる企業が入っているオフィスビルのこと。
また、こわれやすいという意味もあるそうです。
松本清張『ガラスの城』のあらすじ
『ガラスの城』は二部から成り立ちます。
- 第一部は〈三上田鶴子の手記〉
- 第二部は〈的場郁子のノート〉
東京都内にある一流企業に勤めるOLが、社内旅行で起きた殺人事件の解明に乗り出すミステリー。
東亜製鉄東京支社は新築ビルの13、14階を借り切り、男女合わせて社員200名を抱える企業。
社員旅行の夜、販売課長が行方不明になり、変わり果てた姿で発見されました。
「T大卒でエリートコースだった販売課長が、なぜ?」
多くの社員が動揺する中、謎の解明に意欲を見せる女性社員がいました。
ストーリーは彼女の手記という体裁で進みます。
舞台は昭和30年代の日本。
まだまだ女性の社会進出が難しく、一流企業に入社しても雑用ばかりさせられていた時期ですね。
男性社会の中で、出世をあきらめ鬱屈した思いを持つ女性たちの姿が浮き彫りになる長編推理小説です。
読んでいると「昭和」を感じますね。
松本清張『ガラスの城』の見どころ
昨今、推理小説のヒロインは若く美しい女性がほとんど。
誉田哲也の姫川玲子シリーズ、櫛木理宇のホーンテッド・キャンパスシリーズなど枚挙にいとまがありません。
ですが、『ガラスの城』の主要人物である三上田鶴子と的場郁子はどちらも地味な女性。
年齢は20代後半から40代。
この小説が書かれた時代、地味な人物に光が当たるのはまれでした。
エンタメはヒーローとヒロインの時代。
1985年『セント・エルモス・ファイアー』、日本では1986年の『男女7人夏物語』までは「群像劇」も作られていなかったんですよ。
今でいう「陰キャ」が娯楽長編小説の主人公にすえられるはめずらしく、松本清張の先見性を感じますね。
小説には華やかな才媛も登場しますが、彼女たちに冷ややかな視線を送る田鶴子と郁子は視聴者が感情移入しやすいと思います。
今回のドラマでは的場郁子を波瑠さん、三上田鶴子を木村佳乃さんが演じるので美人すぎますね。
精一杯、地味に見せるために波瑠さんがメガネをかけていますが、美貌が隠せていません。(笑)
これは岸本加世子さん、洞口依子さんが演じた2001年版の方が原作に忠実だといえるかもしれません。
ひとつ気になったのは、ドラマ中で三上田鶴子と的場郁子の年齢設定が逆になっています。
これは2001年版を踏襲していますが、どうして原作通りにしないのか理解できない変更点ですね。
松本清張『ガラスの城』が映像化されない理由は?
前にも述べたように『顔』、『霧の旗』は10回前後映像化されています。
ですが、『ガラスの城』は今回で3回目です。
全く映像化されていない作品もありますが、この数字は中途半端な印象を受けますね。
それもそのはず。
理由は以下の2点だと思います。
- 主要人物2人が地味キャラなので画面に華がない
- この小説は「手記」で成り立っている
そして、動機に重点を置く社会派ミステリーの雄、松本清張としてはめずらしいトリックが使われています。
たとえば、連城三紀彦や折原一にふさわしいようなもの。
それをどう脚本に落とし込み、映像化するかは制作側の腕次第。
なかなかの「冒険」です。
小説通りに撮って、充分手に汗握る『霧の旗』とは異なる作品ですね。
まとめ
新春ドラマ『ガラスの城』について紹介しました。
興味のある方は原作小説もあわせてお楽しみください。